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合田直弘【Horse Racing Fanatic】
配信日:2015/10/31 17:50

「 ハッピー・オクトーバー 」◆Horse Racing Fanatic  
Vol.6 合田直弘


馬券をほとんど買わない筆者だが、本命党か穴党かと問われれば、本命党であることは間違いない。
 
理詰めで行ったはずの予測を真っ向から裏切る「どんでん返し」も確かに競馬の醍醐味の1つだが、能力が上位の馬が存分に本領を発揮して大向うをうならせる勝ち方を見せてくれるほうが、筆者の肌感覚には向いており、より大きな感動を覚える。

そういう意味で、2015年10月は筆者にとって至福の1か月だった。最初の週末はフランスのロンシャンで、次の週末はイギリスのニューマーケットで、そして1週飛んで10月最終週はオーストラリアのムーニーヴァレイで競馬を見たのだが、いずこでも強い馬による痺れるような競馬を堪能することが出来たのだ。

第1週にロンシャンで見た、凱旋門賞におけるゴールデンホーン(牡3、父ケイプクロス)のレース振りについては、もはや多くを語る必要はあるまい。鞍上の名手フランキー・デトーリの「神騎乗」ともども、後世まで語り継がれるであろう競馬を目の当たりに出来たことは、競馬ファンとして無上の喜びである。

第2週のニューマ-ケットを舞台に展開されたのは、2歳世代のスタ―ホースが多数登場する「フューチャー・チャンピオンズ・デイ」だった。

9日(金曜日)に行われたのが、翌春の牝馬クラシックに向けた登竜門と言われるG1フィリーズマイル(芝8F)で、このレーを1番人気に応えて快勝したのが、エイダン・オブライエン厩舎のマインディング(牝2、父ガリレオ)だった。

G1コロネーションS(芝8F)などG1・2勝の活躍馬リリーラングトリーの2番仔で、G3愛千ギニートライアル(芝8F)勝ち馬キストバイエンジェルスの全妹にあたる同馬。デビュー2戦目のメイドン(芝6F)で初勝利を挙げた後、G2デビュータントS(芝7F)が同厩舎で父親も同じバリードイル(牝2)の2着。再びバリードイルとの対戦となった続くG1モイグレアスタッドS(芝7F)では見事に雪辱を果たし、G1初制覇を果たしていた。

そしてフィリーズマイルでも、後続に4.1/2馬身差という圧倒的パフォーマンスを見せたマインディングを、ブックメーカー各社は来春の千ギニーに向けた前売りでオッズ4~5倍、オークスへ向けた前売りでオッズ5~9倍を掲げ、いずれも1番人気に浮上させることになった。翌10日(土曜日)に行われたのが、イギリスにおける2歳王者決定戦的位置づけにあるG1デューハーストS(芝7F)だった。

今年の同競走には、来年の二千ギニーに向けた前売りで1番人気(オッズ5倍前後)に推されるエアフォースブルー(牡2、父ウォーフロント)と、2番人気(オッズ6倍前後)に推されていたエモーションレス(牡2、父シャマーダル)がこぞって出走。前者がクールモア、後者がゴドルフィンという、2大帝国が有する期待馬同士の直接対決が実現したことで、例年以上に大きな盛り上がりを見せることになった。
   
勝利を収めたのはエアフォースブルーで、後続に3.1/4馬身差をつける快勝。一方のエモーションレスは、出遅れて最後方からの競馬となり、末脚も不発で最下位で入線。レース後、左前膝に剥離骨折を発症していることが判明し骨片摘出手術が行われるという、両馬の明暗がくっきり分かれる結果となった。

エアフォースブルーは、日本で走り勝ち馬となっているシェーンメーアの半弟にあたる米国産馬。キーンランド・セプテンバーセールにて49万ドルでクールモアに購入され、エイダン・オブライエン厩舎に入厩。今年5月にカラのメイドン(芝6F)でデビュー勝ち後、ロイヤルアスコットのG2コヴェントリーS(芝6F)では2着に敗れたが、以降はカラのG1フェニックスS(芝6F)、同じくカラのG1ナショナルS(芝7F)、そしてG1デューハーストSをいずれも制してG1・3連勝を飾ることになった。

現地メディアはエアフォースブルーを、「フランケル以降で最強のデューハーストS勝ち馬」と持ち上げ、ブックメーカー各社は二千ギニーへ向けた同馬のオッズを、2.0倍~2.5倍に引き下げている。

有望な2歳馬が出現すると、関係者やファンの間で常套句のように交わされるのが「我々は今日、来年のクラシック勝ち馬を目の当たりにしたか」というフレーズだが、10月第2週のニューマーケットで筆者は、来年の千ギニーと二千ギニーの勝ち馬を目撃したのではないかと思っている。

そして、10月第4週のオーストラリアでは、メルボルンのスプリングカーニヴァルにおける、ムーニーヴァレイ・ラウンドのハイライトである、G1マニカトS(芝1200m)とG1コックスプレート(芝2040m)を取材してきた。

1979年から1983年にかけて、ムーニーヴァレイのG1ウィリアムリードS(芝1200m)を5連覇した名馬マニカトの名を冠したこの競走は、過去の勝ち馬にストロベリロード、リダウツチョイス、サンラインといった名馬が並ぶ一戦である。

23日(金曜日)に行われた今年のマニカトSを制したのは、シャトークア(?5、父エンコスタデラーゴ)だ。ムーニーヴァレイ競馬場というのはコースのレイアウトが独特で、最後の直線が173mしかない。そのムーニーヴァレイで、シャトークアはレース前半、10頭立ての最後方に待機、4コーナーも馬群の一番後ろで廻った時には、同馬を1番人気に支持したスタンドから悲鳴が上がったが、そこから矢のような末脚を繰り出して残100m付近で先頭に立ち、そこから更に伸びたシャトークア1200m戦としては決定的な2馬身差を後続につけて優勝。目の前で展開された極上のスペクタクルに、悲鳴から歓喜へ、そして驚嘆へと、スタンドは目まぐるしく表情を変えることになった。

昨年秋のG1TJスミスS(芝1200m)に続く2度目のG1制覇を果たしたシャトークア。次走は11月7日のG1ダーレークラシック(芝1200m)の予定で、その後は海外に打って出て、まずが12月13日のG1香港スプリント(芝1200m)へ。香港で遠征への適性が確認された暁には、来年のロイヤルアスコットに参戦するプランが浮上している。

そして、24日(土曜日)に行われたコックスプレートは、スプリングカーニヴァルにおける2000m路線の最高峰である。開催時期の近いメルボルンC(芝3200m)やコーフィールドC(芝2400m)がいずれもハンデ戦であるため、このレースこそが春の豪州最強馬決定戦であると位置づける関係者も多いのが、別定重量戦のコックスプレートである。
 
今年の勝ち馬は、出走14頭中唯1頭の牝馬だったウィンクス(牝4、父ストリートクライ)だ。昨シーズンのG1クイーンズランドオークス(芝2200m)勝ち馬で、今季初戦のG2テオマークスS(芝1300m)、前走のG1エプソムS(芝1600m)でいずれも牡馬を撃破して勝利を収めての参戦だった同馬。道中6番手から、4コーナーの入り口で一気に仕掛けて先頭に立ち、最後は後続に4.3/4馬身差をつける快勝。勝ち時計の2分2秒98は、トラックレコードだった。昨秋から5連勝で3度目のG1制覇を果たした同馬は今、1998年から2002年にかけて活躍し、13のG1競走を制した名牝サンラインと、同じ水準の能力があるのではないかと囁かれている。

名馬が演じる至高のパフォーマンスに酔い、余韻にひたりながら盃を重ねてさらに酔う10月となった。 



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