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青木義明【競馬一直線】
配信日:2015/09/08 09:30

高校3年の夏・尾瀬を歩いて◆青木義明の競馬一直線


おはようございます。青木義明です。昨年の秋、高校時代の同窓会がありました。昭和42年(1967年)の春に高校を卒業して以来の47年ぶりの再会。みんな、それぞれの人生を歩んで65歳や66歳を迎えています。小生は群馬県沼田市に生まれ、群馬県立利根農林高校工業課程土木科で学びました。昭和39年(1964年)の高校一年の秋に東京オリンピックが開催されました。随分と時が流れたものですが、まだまだピンピンしています。

クラスは男子学生ばかりの50人編成。途中で3人が退学、その後、4人が亡くなり、先日の同窓会には21人が参加しました。地元で建設業を営んでいる者も、建設省などの公務員退職後に経験を生かしてコンサル業をやっているのもいました。ちょうど高度経済成長の走りの頃で、中堅土木技術者の養成のために随分と厳しく勉強をさせられたものです。

同窓会の幹事の一人が高校時代の文集を保存してくれていて、それぞれ参加者にコピーを送ってくれました。小生の二つの作品に目を通したらとても懐かしく、とても輝いていた青春時代が蘇りました。

そのうちの一つは先般、配信いたしましたが、長女にコピー原文を渡し、パソコン入力を頼んでいたものが出来上がりました。お時間がありましたら、ご一読ください。小生の17歳の時の執筆です。



◇尾瀬を歩いて

3年 青木義明


昭和41年8月12日午前2時。ここは沼田駅前。あたりは真っ暗。仲間はもう来てもいい頃だ。ポツポツ姿を現わす。全員集合。午前3時、バスに乗り込む。

仲間は10人。おれともう一人の青木、石坂、金子、桜井、それから鈴木、星野と彼の弟に田村、それと矢野。気の合った級友同士だ。

おれはワクワクしている。が、まだ夜のうちだからねむった方がいいな。みんなもしーんとしているし、さあねむれ。

午前5時、外は光が躍って来た。夜とお別れだ。バスは朝に向って、尾瀬をめざしてつっ走る。細い山道なので、木の枝が車窓をくすぐる。おれたちに歓迎の意を表しているんだろう。元気に行って来るぜ。

さあ、着いた。富士見下の空気が我々をむかえてくれる。荷物を肩にかつぎ、小脇にもかかえて降りる。一歩ふみ込む。そして深呼吸。体がきゅっと引き締る。とても冷たい。新鮮な空気がきらきらと朝日に輝く。暑い下界に比べてここは別天地のようだ。気持がピリッとしたところで登り出す。おっと、あいつはまだ便所に顔をかしている。

「気持がいいなあ」と前の方で誰か言う。「ほんとだなぁ。」おれも言った。道は木の間をぬって、かなり急だ。トランシットを持って来て測れば三十度よりあるだろうな、なんて思ってる。

どんどん登る。うしろを振り返ると、誰も見えない。おれたちが先頭だ。「牛建陀多がくもの糸を伝って天に登る途中、下をふりかえるとどんどん人が続いて来るので糸を切ってしまった。そしたら自分までも落ちてしまった。」というのが、芥川の小説にある。この話が、ふっと浮かんだのでおれも下を見た。だが、誰もいなくて期待はずれ。こんなことを考えてると、歩くのが遅くなるから、だまって登ろう。

だいぶ登った所。朝めしのむすびを食っている。やや平らな所だ。お行儀よく食っていると、下の方で人声が聞える。と思うまもなく、そこに五、六人の山男が現われ、「おはよう」と声を残して先に行った。おれたちの仲間に、平気な顔して、うまそうにパクついているやつがいる。

たらふく喰って、また歩き出す。道が二手に別れているらしい。先頭のやつが、「こっちの方が近い。」と言いながら、細い方をどんどん行くんで、しかたなくついて行く。あたりはひっそりしている。おれたちは笹の葉をかき分けて進んでいる。ズボンも服もぬれてきた。「とまれ」と前方に声をかけても、どんどん行ってしまう。

「大丈夫かなあ。」とか「もどった方がいいぞ、こりゃあ。」なんて誰か言うので、また前方にどなる。やがて三人引き返ってくるのが見えた。更に残り半分も戻り始めている。「どうだ、行けるか」と聞く。「だめだ笹が深くてわかんねえ。」「だけどアイツ行っちゃったぜ」と答える。めいめいが、「もどれえ」などとどなるが、彼は来ない。返事もない。みんなで言う。「いちにいさん」とまで言って、なんて言うのかわからなくなった。「オーイ」「帰るぞ」「戻れえ」と一人一人違うので、彼には、なんて聞えたやら。「アッハッハ」と笑いころげる。

やっとのことでみんな揃ったので、高度をつめる。荷物が背中にくい込む。よいさこらさと行くうちに、富士見小屋に着いた。ここでひと休み。清水をくんで飲むと腹が一瞬に冷える。とてもいい気持だ。

またポツポツ歩き始める。背中が重い。だけど歩くのは楽だ。なぜって、大木を縦にバッサリ割ったのが、歩きよく敷並んでいる。はだしだって歩ける。行きかう人人が、みんな互いにあいさつする。「こんにちわ」「こんにちわあ」と。

アヤメ平を通り抜け、少し進む。もうお昼にしたい。みんなの意見が統一。ラーメンをにて食おうということになった。ここは小川のほとり。さらさら流れる水の音が、気持よく心にひびく。冷やっとした空気が体を包み何か神秘的だ。ときおり鳥の鳴く声が聞える。周囲は沈静。それに比べて、ラーメンを食う音は一気百雷。みんな腹がへってるから無理ない。とりわけうまい。見る間になべが空になる。

出発。ガヤガヤしゃべったり、ラジオで高校野球を聞きながら歩く。沼田は暑いだろうなあ、なんて思う。

山の鼻小屋のキャンプ場に着く。だいぶ疲れた気がする。テントを二幕張る。北側のはずれの大きな木の近く。マキを割ったり、飯を作るものは、その部所につく。おれはタマネギとジャガイモを洗いに行く。炊事場には、人がだいぶいて、にぎやかだ。知らぬ同志話をする。空を仰ぐと何やら落ちて来そうだから仕事を急ぐ。みんなかけまわる。

愉快だ。カレーを作って、笑いながら食う。ほんとにうまい。ゴロゴロと聞えた。と同時にザアーと降り出した。「それっ」とテントにかけ込む。一つのテントに五人ずつ入った。ネズミ一匹入る余地がない、とは大げさだが、かなり窮屈。顔が大きく見える。相手もおれをそう見てる。

にっこり笑うと、相手も笑う。いい雰囲気だ。話しが始まる。あそこで転びそうになった、なんていうと大笑いをする。何でも話題になる。そして食い物があるから楽しさも増す。

まわりを気にすることもなく、深い山の中で、こうしてじっと身を寄せて話し合ってる。山っていいなあ。若いってすばらしいなあと思う。腹を割って語り、笑い、大声で歌を歌う。

ふだんは勉強にあけくれるおれたちにとって、こういう機会は、どんな宝石よりもすばらしい。隣りのテントも歌ってる。これからまた苦難も多いだろうが、おれたちはくじけやしない。絶対に負けるものか。強く強く生きようぜ。さあみんなで歌おう。

われらの明るい歌声は、山中を渡りゆく。雨の音にも消えないで。



◆青木義明の競馬一直線
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